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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)282号 判決

東京都目黒区下目黒2丁目3番8号

原告

松下電送システム株式会社

代表者代表取締役

片山淳吉

訴訟代理人弁理士

役昌明

大橋公治

平野雅典

林紘樹

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

宮島潤

村井誠次

吉村宅衛

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成4年審判第8016号事件について平成9年10月1日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

富士通株式会社は、昭和61年11月28日、名称を「デュアルアクセス機能付ファクシミリ装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和61年特許願第284672号)をしたが、平成4年3月12日拒絶査定を受けたので、同年5月7日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第8016号事件として審理した。

原告は、平成7年4月1日、富士通株式会社から、本願発明につき特許を受ける権利を譲り受け、同年5月29日、特許庁長官に対し、その旨の届け出をした。

特許庁は、平成8年3月4日、本願発明につき特許出願公告をしたが、特許異議の申立てがあり、平成9年10月1日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月22日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

2つのオペレーションを並行して行うデュアルアクセス機能を持つファクシミリ装置において、

1つの表示器(1)と、

該表示器(1)に表示する表示データを格納する第1画面メモリ(21)と該第1画面メモリ(21)の表示データを制御すると共に第1のオペレーションを遂行する第1マンマシン制御手段(31)と、

該表示器(1)に表示する表示データを格納する第2画面メモリ(22)と該第2画面メモリ(22)の表示データを制御すると共に第2のオペレーションを遂行する第2マンマシン制御手段(32)と、

該第1マンマシン制御手段(31)と該第2マンマシン制御手段(32)へ選択的に実行指示情報を入力するキー制御手段(5)と、

該キー制御手段(5)に設けられ、該第1画面メモリ(21)に格納された表示データと該第2画面メモリ(22)に格納された表示データを該表示器(1)に切り替え表示させ、かつ該キー制御手段(5)のキー情報入力先を切り替える切替指令手段(6)と、

を具備することを特徴とするデュアルアクセス機能付ファクシミリ装置。(別紙2参照)

3  審決の理由

審決の理由は、別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本願発明は、引用例1(本訴における甲第4号証)及び引用例2(本訴における甲第5号証)に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものと判断した。

4  審決の認否

審決の理由2頁2行ないし3頁8行(本願発明の要旨等)及び3頁9行ないし15行(異議申立人の主張)は認める。

同3頁16行ないし6頁17行(引用例の記載)のうち、4頁6行ないし11行(引用例1のうち、(ロ)の記載)は争い、その余は認める。

同6頁18行ないし11頁8行(一致点、相違点の認定)のうち、9頁5行ないし9行(引用例1の「鍵盤6」は、本願発明の「切替指令手段6」にも相当すること)、及び9頁18行から10頁19行「一致し、」まで(一致点の認定)は争い、その余は認める。ただし、8頁16行、17行の「表示ユニット」は「表示制御ユニット」の、9頁2行、3行の「「メモリ(22)」、「第1マンマシン制御手段(31)」」は「「第1マンマシン制御手段(31)」、「メモリ(22)」」の、それぞれ誤記である。

同11頁9行ないし12頁14行(相違点についての判断)及び12頁15行ないし13頁18行(審判請求人(原告)の主張に対する判断)は認める。

13頁19行ないし14頁3行(まとめ)は争う。

5  審決の取消事由

審決は、引用例1の認定を誤ったため、本願発明と引用例1との一致点の認定を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(所望の単一の業務に対応する画面への切替えについての誤認)

審決は、引用例1に、「(ロ)、複数の業務を同時に遂行している状態において、表示ユニット5の表示画面を鍵盤6からの指示による表示制御ユニット2の制御により、指示された所望の単一の業務に対応する画面に切り替えること」(審決書4頁6行ないし11行)が記載されていると認定するが、誤りである。引用例1には、単一の画面表示(別紙3第3図参照)から別の単一の画面表示に移行することは記載されていないものである。

〈1〉 引用例1(甲第4号証)には、次の(a)ないし(i)の事項が記載されている。

(a)「従来、通信回線を介してホストコンピュータに接続されるディスプレイ端末装置は、1組の表示ユニットを(「と」の誤記と認める。)鍵盤ユニットとで1つの業務を遂行させていた。従って同時に複数の業務を遂行したい場合には、業務の数だけの表示ユニットを(「と」の誤記と認める。)鍵盤ユニットとを必要とした。また、このようにホストコンピュータで大部分の処理を行うようなシステムに於ける端末装置は、ホストコンピュータの処理待ちとなる事があるが、この期間の端末装置はホストコンピュータからの応答を待っているのみであり、何も業務を行なっていないに等しい状態となる。・・・従って本発明の目的は、端末装置の業務遂行効率を向上させることにある。」(1頁左下欄17行ないし右下欄12行。審決認定の(イ))

(b)「本発明によれば、表示ユニットと、表示ユニットへの表示内容を記録するメモリと、この表示ユニットとメモリとを制御する制御回路を有するディスプレイ端末装置において、表示ユニットおよびメモリを分割使用することを特徴とするディスプレイ端末装置が得られる。」(1頁右下欄13行ないし18行)

(c)「表示ユニット5の表示領域の分割例を示す第2図および第3図において、第2図は同時に3つの業務のデータを表示した場合、第3図は1つの業務のみを表示した場合を示している。」(2頁左上欄10行ないし13行。審決認定の(ロ)の一部)

(d)「このような表示を行なわせる場合、操作者は、鍵盤6から表示ユニット2(「表示ユニット5」の誤記と認める。)および記憶回路4の分割方法を指定すると共に分割された各領域を何の業務に使用するかを指定する。表示制御ユニット2は、これ以後入力される鍵盤制御ユニット3からのデータが指定された業務用のものである事を記憶し、以後の鍵盤6からの入力データは表示制御ユニット2により記憶回路4及び表示ユニット5の指定された領域に出力する。」(2頁左上欄13行ないし右上欄2行。審決認定の(二)とほぼ同じ)

(e)「指定された表示領域を越えてデータの表示要求が発生した場合、表示制御ユニット2は、それまでの表示をスクロールし、新しいデータを表示するが、記憶回路4の領域に余裕があれば、スクロールにより表示領域に表示されなくなったデータは記憶回路4内に保持される。」(2頁右上欄4行ないし9行)

(f)「遂行業務を他の業務に切り換える場合は、操作者が、その指示を鍵盤6から入力する事により行う。この指示入力後、鍵盤6からのデータは次の切り換えを指示しない限り切り換えられた業務に対するデータとして処理される。」(2頁右上欄13行ないし17行。審決認定の(ホ)の一部)

(g)「スクロールにより、現在の表示領域からはみ出したデータを再表示する手段として、表示制御ユニット2には逆スクロールする手段と、一時的に表示ユニット5を単一の業務に割り当てる手段が用意されている。これらの手段は、いずれも鍵盤6からその旨を表示制御ユニット2に指示することによって行なわれる。」(2頁右上欄18行ないし左下欄4行。審決認定の(ロ))

(h)「以上説明した動作を第4図のフローチャートによって示す。」(2頁左下欄5行、6行)

(i)「本発明は以上説明したように、1組の表示ユニットおよび鍵盤を同時に分割して使用するか或いは、一時的に特定の業務に割り当てて使用する事により、1台の端末装置で同時に複数の業務に使用することが可能となった。」(2頁左下欄10行ないし14行)。

〈2〉 上記〈1〉の引用例1の記載からは、審決がした上記(ロ)のような解釈はできない。

すなわち、引用例1の発明は、「ホストコンピュータで大部分の処理を行うようなシステムに於ける端末装置は、ホストコンピュータの処理待ちとなる事があるが、この期間の端末装置はホストコンピュータからの応答を待っているのみであり、何も業務を行なっていないに等しい状態となる」のを避けるために、「端末装置の業務遂行効率を向上させる」ことを目的として、「表示ユニットと、前記表示ユニットへの表示内容を記憶するメモリと、前記表示ユニットおよび前記メモリの制御回路とを有するディスプレイ端末装置において、前記制御回路が前記表示ユニットおよび前記メモリを分割使用することを特徴とするディスプレイ端末装置」としたものである。つまり、同時に複数の業務を行うことができるようにするために、表示ユニット5及びメモリ4の制御回路2が表示ユニット5及びメモリ4を分割使用するよう構成したものであって、第2図(別紙3第2図参照)に示すような同時に3つの業務のデータを表示する例が普通であって、このような表示において第3図(別紙3第3図参照)に示すような1つの業務のみを表示する場合というのは、スクロールにより現在の表示領域からはみ出したデータを再表示したいときに操作者の指示によって一時的に引き起こされる表示形態であって、審決認定の(ロ)で記載する「単一の業務に対応する画面」への「所望」の「切り替え」ができるものでない。

換言すれば、第3図に示すような1つの業務のみを表示する場合であっても、メモリ4の業務1ないし業務3に対する領域割当は、第2図の場合と特段変わるところがない。所望の単一の業務に対応する画面にするためにメモリ4の領域割当をやり直すことは引用例1の従来例技術と変わらないものになるので、そのようなことを敢えてするはずがないし、また第3図に示すような1つの業務のみを表示した画面において、業務2に関するデータを表示できる領域からはみ出した部分の“ABCD”のデータも表示されるのは、鍵盤の接続先が業務2に設定されている状態にあって(第4図(別紙3第4図参照)のフローチャート参照)、スクロールによって画面からはみ出したデータの再表示を行う手段を起動させた時に起こるものであると解すべきで、「指示された所望の単一の業務に対応する画面に切り替え」ることによって第3図のようなメモリの領域分割及び画面表示が起こると解すべきではない。

(2)  取消事由2(「鍵盤6」の技術的意義の誤認)

審決は、「引用例1の前記(ホ)において、「遂行業務を他の業務に切り換える場合は、操作者が、その指示を鍵盤6から入力する事により行う。」とあるから、引用例1の「鍵盤6」は、本件(本願)発明の「切替指令手段6」にも相当している」(審決書9頁5行ないし9行)と認定するが、誤りである。

本願発明の「切替指令手段6」は、「第1画面メモリ(21)に格納された表示データと第2画面メモリ(22)に格納された表示データを表示器(1)に切り替え表示させ、かつキー制御手段(5)のキー情報入力先を切り替える」ためのものである。

これに対し、引用例1の「鍵盤6」は、「遂行業務を他の業務に切り換える」ためのものである。すなわち、第2図に示される業務1ないし業務3のデータを表示している例でいえば、今まで業務1に対しで鍵盤6からのデータ入力が可能であったのを、業務2に対して鍵盤6からのデータ入力が可能になるようにすること(第4図のフローチャートでは、「鍵盤の接続先を変更する」に該当する。)に相当しているだけで、業務1ないし業務3のデータを表示するという表示形態そのものは変わるものではない。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認め、同5は争う(なお、同4及び同5において、原告が誤記として指摘する部分は、いずれも指摘どおりの誤記であることは認める。)。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

〈1〉(a) 引用例1に記載されたディスプレイ端末装置は、その制御回路が、表示ユニットとメモリとを分割使用するようにしたものであるところ(特許請求の範囲)、引用例1(甲第4号証)には、同端末装置について、「表示制御ユニット2は、表示ユニット5の表示領域を分割して表示を行なわせることができるように構成されている。表示ユニット5の表示領域の分割例を示す第2図および第3図において、第2図は同時に3つの業務のデータを表示した場合、第3図は1つの業務のみを表示した場合を示している。このような表示を行なわせる場合、操作者は、鍵盤6から表示ユニット5および記憶回路4の分割方法を指定すると共に分割された各領域を何の業務に使用するかを指定する。表示制御ユニット2は、これ以後入力される鍵盤制御ユニット3からのデータが指定された業務用のものである事を記憶し、以後の鍵盤6からの入力データは表示制御ユニット2により記憶回路4及び表示ユニット5の指定された領域に出力する。」(2頁左上欄7行ないし右上欄2行、第2図、第3図)という記載があり、上記記載では、上記表示ユニット5の分割使用についての「表示制御ユニット2は、表示ユニット5の表示領域を分割して表示を行なわせることができるように構成されている。」との記載に引き続いて、「表示ユニット5の表示領域の分割例を示す第2図および第3図において、第2図は同時に3つの業務のデータを表示した場合、第3図は1つの業務のみを表示した場合を示している。」としているのであるから、引用例1のディスプレイ端末装置では、表示ユニット5を複数の業務表示に分割使用する場合、その表示手法として、第2図に示されるような表示領域を空間的に分割して複数の業務を同時に表示する表示手法と、第3図に示されるような表示領域を時間的に分割して複数の業務を択一的に表示する表示手法とのいずれをも採り得るものと解され、また引用例1の上記記載では、上記のような表示を行わせる場合、操作者は鍵盤6から表示ユニット5の分割方法を指定するとしているのであるから、上記表示手法の選択は操作者による鍵盤6からの指示によりなされることは明らかである。

ところで、上記の択一的表示手法が選択される場合、表示される単一画面として、遂行業務に対応した画面が選択されなければならないことは、複数業務に対応する画面を単一の表示ユニットに択一的に表示する際の当然の事項である(乙第1ないし第3号証参照)。引用例1には、この点について明示の記載はないが、上記指摘の引用例1の記載において、上記鍵盤6による表示ユニット5の分割方法の指定、あるいは分割された各領域を何の業務に使用するかの指定に関する説明に引き続いて、「表示制御ユニット2は、これ以後入力される鍵盤制御ユニット3からのデータが指定された業務用のものである事を記憶し、以後の鍵盤6からの入力データは表示制御ユニット2により記憶回路4及び表示ユニット5の指定された領域に出力する」としていることからみて、引用例1に記載のディスプレイ端末装置においても、鍵盤6による上記遂行業務に対応する画面の指示と、これに基づく表示制御ユニット2による単一表示画面の選択制御(択一的に表示される画面の切り換え制御)を行うことは当然の前提となっているものと解される。

したがって、上記のような表示ユニット5での択一的表示手法での表示がなされる場合についてみると、引用例1には、審決で認定するとおり、「複数の業務を同時に遂行している状態において、表示ユニツト5の表示画面を鍵盤6からの指示による表示制御ユニット2の制御により、指示された所望の単一業務に対応する画面に切り替えること」が記載されているといえるものである。

(b) このことは、第4図(別紙3第4図参照)の記載に照らしても明らかである。すなわち、第4図のフローチャートにおいて、その全体の処理の開始は鍵盤6の操作に基づくものであることが明らかで(第4図のフローチャートの左上の「開始」という記載参照)、前記表示ユニット5の分割方法の指定や択一的表示手法が指定された場合の表示画面の指定が鍵盤6から行われると、第4図のフローチャートのうち、左から3番目のフロー(「分割指定か?」、「分割制御パラメータを変更する」)において、上記の指定に対応した処理が行われることになる。そして、この処理が終了すると、全体の処理が終了し(第4図のフローチャートの右下の「終了」という記載参照)、上記の指定が新たに鍵盤6から行われない限りは、上記の指定に基づく表示ユニット5の表示手法が維持されることになる。一方、新たに分割方法等の指定が鍵盤6から行われると、改めて第4図のフローチャートの全体の処理が開始され、同様にして、その指定に対応した処理が行われると、全体の処理が終了することになる。このことから、上記分割方法等の指定は連続して行うことができることは明らかであり、例えば、「どの1つの業務を表示ユニット5全体に表示するか」という指定と、次の「どの1つの業務を表示ユニット5全体に表示するか」という指定は連続して行うことができ、結局、「所望の単一の業務に対応する画面に切り替えること」を行った後、続けて「別の所望の単一の業務に対応する画面に切り替えること」を行うことができることになる。

〈2〉(a) 原告は、引用例1のような表示ユニットの分割使用に当たっては、第2図に示されるような表示(複数画面の同時表示)をなすのが普通であって、第3図に示されるような表示は、スクロール時に一時的になされる表示形態にすぎない旨主張するが、上記のように、表示ユニットの分割使用手法としては、複数画面の同時表示だけでなく、複数画面中の所望画面を択一的に選択して表示すること、及び択一的に選択された該所望の画面から他の択一的に選択された画面へ切り換えることも、普通に行われており、引用例1の発明では、これら表示手法のいずれをも採り得るものであるから、上記原告の主張は当を得ない。

(b) また、原告は、所望の単一の業務に対応する画面にするためにメモリ4の領域割当をやり直すことは引用例1の目的に逆行する旨主張するが、第2図に示されるようなメモリ4の領域割当が、複数業務の同時表示か、所望業務の択一的表示かとは関係がないことは、第2図、第3図からも明らかであるから、上記原告の主張も当を得ない。

(2)  取消事由2について

上記(1)に述べたように、引用例1に記載のディスプレイ端末装置では、「単一の業務に対応する画面への所望の切り替えができる」ものであるから、引用例1に記載された「鍵盤6」は、本願発明の「切替指令手段6」にも相当しているものである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。

そして、審決書3頁16行ないし6頁17行(引用例の記載)のうち、4頁6行ないし11行(引用例1のうち、(ロ)の記載)を除く事実、同6頁18行ないし11頁8行(一致点、相違点の認定)のうち、9頁5行ないし9行(引用例1の「鍵盤6」は、本願発明の「切替指令手段6」にも相当すること)及び9頁18行から10頁19行「一致し、」まで(一致点の認定)を除く事実、同11頁9行ないし12頁14行(相違点についての判断)並びに12頁15行から13頁18行(審判請求人(原告)の主張に対する判断)は、当事者間に争いがない。

2  原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1(所望の単一の業務に対応する画面への切替えについての誤認)について

〈1〉  甲第4号証によれば、引用例1には、次の(a)ないし(i)の事項が記載されていることが認められる(一部は、当事者間に争いがない。なお、別紙3第1ないし第4図参照)。

(a)「従来、通信回線を介してホストコンピュータに接続されるディスプレイ端末装置は、1組の表示ユニットと鍵盤ユニットとで1つの業務を遂行させていた。従って同時に複数の業務を遂行したい場合には、業務の数だけの表示ユニットと鍵盤ユニットとを必要とした。また、このようにホストコンピュータで大部分の処理を行うようなシステムに於ける端末装置は、ホストコンピユータの処理待ちとなる事があるが、この期間の端末装置はホストコンピュータからの応答を待っているのみであり、何も業務を行っていないに等しい状態となる。・・・従って本発明の目的は、端末装置の業務遂行効率を向上させることにある。」(甲第4号証1頁左下欄17行ないし右下欄12行)

(b)「本発明によれば、表示ユニットと、表示ユニットへの表示内容を記録するメモリと、この表示ユニットとメモリとを制御する制御回路を有するディスプレイ端末装置において、表示ユニットおよびメモリを分割使用することを特徴とするディスプレイ端末装置が得られる。」(同1頁右下欄13行ないし18行)

(c)「表示ユニット5の表示領域の分割例を示す第2図および第3図において、第2図は同時に3つの業務のデータを表示した場合、第3図は1つの業務のみを表示した場合を示している。」(同号証2頁左上欄10行ないし13行)

(d)「このような表示を行なわせる場合、操作者は、鍵盤6から表示ユニット5および記憶回路4の分割方法を指定すると共に分割された各領域を何の業務に使用するかを指定する。表示制御ユニット2は、これ以後入力される鍵盤制御ユニット3からのデータが指定された業務用のものである事を記憶し、以後の鍵盤6からの入力データは表示制御ユニット2により記憶回路4及び表示ユニット5の指定された領域に出力する。」(同2頁左上欄13行ないし右上欄2行)

(e)「指定された表示領域を越えてデータの表示要求が発生した場合、表示制御ユニット2は、それまでの表示をスクロールし、新しいデータを表示するが、記憶回路4の領域に余裕があれば、スクロールにより表示領域に表示されなくなったデータは記憶回路4内に保持される。」(同2頁右上欄4行ないし9行)

(f)「遂行業務を他の業務に切り換える場合は、操作者が、その指示を鍵盤6から入力する事により行う。この指示入力後、鍵盤6か一らのデータは次の切り換えを指示しない限り切り換えられた業務に対するデータとして処理される。」(同2頁右上欄13行ないし17行)

(g)「スクロールにより、現在の表示領域からはみ出したデータを再表示する手段として、表示制御ユニット2には逆スクロールする手段と、一時的に表示ユニット5を単一の業務に割り当てる手段が用意されている。これらの手段は、いずれも鍵盤6からその旨を表示制御ユニット2に指示することによって行なわれる。」(同2頁右上欄18行ないし左下欄4行)

(h)「以上説明した動作を第4図のフローチャートによって示す。」(同2頁左下欄5行、6行)

(i)「本発明は以上説明したように、1組の表示ユニットおよび鍵盤を同時に分割して使用するか或いは、一時的に特定の業務に割り当てて使用する事により、1台の端末装置で同時に複数の業務に使用することが可能となった。」(同2頁左下欄10行ないし14行)。

〈2〉  引用例1中の、「表示ユニット5の表示領域の分割例を示す第2図および第3図において、第2図は同時に3つの業務のデータを表示した場合、第3図は1つの業務のみを表示した場合を示している。このような表示を行なわせる場合、操作者は、鍵盤6から表示ユニット5および記憶回路4の分割方法を指定すると共に分割された各領域を何の業務に使用するかを指定する。」(上記(c)及び(d)の前半)との記載からすると、第2図及び第3図(別紙3第2図及び第3図参照)は、共に表示ユニットの表示領域の分割例であると認められる。引用例1中には、上記認定に反して、第2図に示される複数の業務を表示する場合が通常の状態であることをうかがわせる記載はない。

また、上記記載中の「このような表示を行わせる場合」とは、第2図ないし第3図に示される表示を行わせる場合と認められ、いずれの場合も、操作者が鍵盤から表示ユニット及びメモリ(記憶回路)の分割方法を指定し、分割領域をどの業務に使用するかを指定することにより行われることが認められる。甲第4号証(引用例1)の第4図のフローチャート(別紙3第4図参照)によれば、この指定は、鍵盤6からの入力により、左から3番目のフロー(「分割指定か?」→「分割制御パラメータを変更する」)に従って行われることが認められる。したがって、第3図に示される1つの業務のみを表示する場合であっても、第2図の分割例と同様に、鍵盤からの指定によりフローチャートの左から3番目のフローに従って設定されることになる。さらに、同じく第4図のフローチャートによれば、第3図に示される1つの業務の単一画面表示から別の業務の単一画面表示を指定する場合は、新たに鍵盤6からの分割指定を行うと、同じく左から3番目のフローにより指定が行われ、所望の単一の業務に対応する画面に切り替わることが可能であると認められる。

〈3〉(a)  原告は、引用例1の発明は、第2図に示すような同時に3つの業務のデータを表示する例が普通であって、第3図に示すような1つの業務のみを表示する場合というのは、スクロールにより現在の表示領域からはみ出したデータを再表示したいときに操作者の指示によって一時的に引き起こされる表示形態であると主張する。

確かに、引用例1中の「スクロールにより、現在の表示領域からはみ出したデータを再表示する手段として、表示制御ユニット2には逆スクロールする手段と、一時的に表示ユニット5を単一の業務に割り当てる手段が用意されている。これらの手段は、いずれも鍵盤6からその旨を表示制御ユニット2に指示することによって行なわれる。」(上記(g))との記載によれば、表示ユニットに複数の画面が表示されている場合、現在の表示領域からはみ出したデータを再表示するために、表示ユニットを単一の業務に割り当てることができ、その結果第3図の状態になり得ることが認められる。しかしながら、上記記載の箇所には第3図を引用する記載はないから、第3図はデータの再表示のために一時的に単一の業務を表示ユニットに割り当てた結果のみを図示したものとは認められない。そうすると、第3図は、主にメモリ及び表示ユニットの分割を実行した分割例を示すものであり、それに加えてデータの再表示の結果も図示したものとなっていると解するのが妥当であり、原告の上記主張は採用することができない。

(b)  また、原告は、所望の単一の業務に対応する画面にするためにはメモリの領域割当てをやり直す必要がある旨主張する。しかしながら、前記説示のとおり、引用例1の発明では、メモリが3分割されていても、表示画面を単一の画面として指定できるものと認められるから、原告の上記主張は採用することができない。

〈4〉  よって、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

原告は、「引用例1の前記(ホ)において、「遂行業務を他の業務に切り換える場合は、操作者が、その指示を鍵盤6から入力する事により行う。」とあるから、引用例1の「鍵盤6」は、本件(本願)発明の「切替指令手段6」にも相当している」との審決の認定は誤りである旨主張する。

〈1〉  第3図のように単一の業務が表示されている場合は、表示ユニットに表示されている単一の業務が遂行業務であり、表示画面を他の業務に対応する画面に変更することなく遂行業務を他の業務に切り換えることはできないものであるから、審決の上記引用箇所における鍵盤6は、「遂行業務を他の業務に切り換える」機能を果たすにすぎないと認められる。

〈2〉  しかしながら、前記(1)に説示のとおり、引用例1の発明は、メモリを複数業務に分割し、そのうちの1つの業務を画面表示すること(第3図)を分割使用の1例としていること、このような表示は、操作者が鍵盤から表示ユニット及びメモリの分割方法を指定するとともに分割された各領域をどの業務に使用するかを指定することによって行われること、分割方法の指定が鍵盤6から行われると、第4図のフローチャートの左から3番目のフローに従って処理されるものでみる。このように、単一の画面表示から別の単一の画面表示に切り替える場合も、同様に鍵盤6からの分割指定により実行可能であるから、鍵盤6からの分割指定により「所望の単一の業務に対応する画面に切り替えること」ができることになる。表示ユニットが単一の画面表示を行っている場合、キー情報入力先は表示される業務であるから、鍵盤による分割指定として、別の単一の業務に対応する画面を指定し、その業務に対してキー情報の入力を可能にするように指定することは当然のことと認められる。したがって、引用例1の発明の「鍵盤6」は、本願発明の「表示データを該表示器(1)に切り替え表示させ、かつキー制御手段(5)のキー情報入力先を切り替える切替指令手段(6)」に相当すると認められる。よって、引用例1の鍵盤6は本願発明の切替指令手段6に相当するとの審決の認定に誤りはない。

〈3〉  したがって、原告主張の取消事由2も理由がない。

(3)  結論

そうすると、審決の本願発明と引用例1に記載されたものとの一致点の認定(審決書9頁18行ないし10頁19行)にも誤りはなく、原告の請求は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年10月15日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

理由

本願は、昭和61年11月28日に出願されたものであって、平成8年3月4日に出願公告され、その発明の要旨は、出願公告された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりの

「2つのオペレーションを並行して行うデュアルアクセス機能を持つファクシミリ装置において、1つの表示器(1)と、

該表示器(1)に表示する表示データを格納する第1画面メモリ(21)と該第1画面メモリ(21)の表示データを制御すると共に第1のオペレーションを遂行する第1マンマシン制御手段(31)と、

該表示器(1)に表示する表示データを格納する第2画面メモリ(22)と該第2画面メモリ(22)の表示データを制御すると共に第2のオペレーションを遂行する第2マンマシン制御手段(32)と、該第1マンマシン制御手段(31)と該第2マンマシン制御手段(32)へ選択的に実行指示情報を入力するキー制御手段(5)と、

該キー制御手段(5)に設けられ、該第1画面メモリ(21)に格納された表示データと該第2画面メモリ(22)に格納された表示データを該表示器(1)に切り替え表示させ、かつ該キー制御手段(5)のキー情報入力先を切り替える切替指令手段(6)と、を具備することを特徴とするデュアルアクセス機能付ファクシミリ装置。」

にあるものと認める。

これに対して、当審における特許異議申立人、山田勢二は甲第1号証乃至甲第2号証を提示し、本願発明は、上記甲第1号証乃至甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。

特許異議申立人の提示した甲第1号証刊行物である特開昭59-106040号公報(昭和59年6月19日出願公開 以下、これを引用例1という。)には、通信回線を介してホストコンピュータに接続するディスプレイ端末に関する発明が開示されており、そこには、

(イ)、同時に複数の業務を遂行すること、および従来例として、業務の数だけ表示ユニットと鍵盤ユニットとを用いること(同公報第1頁左下欄第17行~同頁右下欄第12行)、

(ロ)、複数の業務を同時に遂行している状態において、表示ユニット5の表示画面を鍵盤6からの指示による表示制御ユニット2の制御により、指示された所望の単一の業務に対応する画面に切り替えること(同公報第2頁左上欄第10行~同欄第13行、および同頁右上欄第18行~同頁左下欄第4行)、

(ハ)、「ホストコンピュータとのインターフェースである通信回線接続回路1からの信号は、メモリ4に記憶され表示制御ユニット2の制御を受けて表示ユニット5に表示される。鍵盤6からの入力データは、鍵盤制御ユニット3を介して表示制御ユニット2および通信回線接続回路1に接続されている。表示制御ユニット2は、表示ユニット5の表示領域を分割して表示を行わせることができるように構成されている。」(同公報第2頁左上欄第1行~同欄第9行)、

(ニ)、「操作者は、鍵盤6から表示ユニット2および記憶回路4の分割方法を指定すると共に分割された各領域を何の業務に使用するかを指定する。表示制御ユニット2は、これ以後入力される鍵盤制御ユニット3からのデータが指定された業務用のものである事を記憶し、以後の鍵盤6からの入力データは表示制御ユニット2により記憶回路4及び表示ユニット5の指定された領域に出力する。この入力データは、同時に通信回線接続回路1を介してホストコンピュータに伝送させる。」(同公報第2頁左上欄第14行~同頁右上欄第4行)、

(ホ)、「ホストコンピュータからの通信回線接続回路1を介した応答データは、そのデータのもつ識別ビットにより、対応する業務領域に表示、記憶される。遂行業務を他の業務に切り換える場合は、操作者が、その指示を鍵盤6から入力する事により行う。この指示入力後、鍵盤6からのデータは次の切り換えを指示しない限り切り換えられた業務に対するデータとして処理される。」(同公報第2頁右上欄第10行~同欄第17行)、ことが夫々図面と共に記載されている。

甲第2号証刊行物である特開昭61-80458号公報(昭和61年4月24日出願公開 以下、これを引用例2という。)には、画像情報処理システムに関する発明が開示されており、そこには、画像情報を通信ネットワーク等を介して他の装置との間で画像情報を交換して印刷出力等をする業務と、複写処理を行う業務との2つを並列して行うデュアルアクセス機能を有する画像情報処理システム、並びに表示制御装置13とそれに関連して設けられた入出力装置(ディスプレイ端末)を配置していること(同公報第2頁左上欄第3行~同頁右上欄第14行、同第2頁左下欄第10行~同欄第13行、同第6頁左下欄第10行~同頁右下欄第4行、および同第3頁左上欄第10行~同欄12行、同第4頁左上欄第1行~同欄第6行)が図面と共に記載されている。

そこで、本願の発明と引用例1に記載されたものとを対比すると、

引用例1記載の「業務」、「表示ユニット5」、「鍵盤6」は、本件発明の「オペレーション」、「表示器(1)」、「キー入力」に相当する。

次に、本件発明における「第1マンマシン制御手段(31)」並びに「第2マンマシン制御手段(32)」についてみると、本件特許公報第5欄第3行~第8行に、「第1図の第1マンマシン制御手段31は、第2図の第1画面メモリ用のマンマシン制御タスク31と第1画面メモリ用の起動プログラム41のことであり、第1図の第2マンマシン制御手段32は、第2図の第2画面メモリ用のマンマシン制御タスク32と第2画面メモリ用の起動プログラム42のことである。」と記載されており、また、同公報第5欄第15行~第18行には、「マン・マシン制御タスク31に起動の入力データがあるとマン・マシン制御タスク31は起動プログラム41を走らせると共に第1画面メモリ21の内容をLCD表示器1の開始画面とする。」と記載されており、これから、第1、第2オペレーションを遂行することは、プログラムを走らせたり、命令することと認められる。

ところが、引用例1においても、上記(ハ)から(ホ)の記載より、鍵盤6からの指示入力信号が鍵盤制御ユニットを介して、インターフェイスである通信回線接続回路1に接続され、通信回線接続回路1は、その信号をホストコンピュータに送り、特定の業務(オペレーション)を遂行せしめており、表示制御ユニット2は、ホストコンピュータからのその業務に関する応答データ、通信回線接続回路1からの信号、メモリからの信号を記憶回路4および表示ユニット5の指定された領域に出力することが明らかである。またインターフェイスとしてオペレーションの遂行の機能を持たせることも日常行われていることである。

したがって、引用例1の通信回線接続回路1と表示制御ユニット2が、本件発明のマンマシン制御手段に該当することは明らかである。

そして、業務が同時に遂行できるからには、表示ユニット内も分割され複数業務夫々の制御部があるといわざるを得ない。すると、引用例1記載の「メモリの分割の一部」、「通信回線接続回路1と表示制御ユニットの各一部」、「メモリの他の一部」、「通信回線接続回路1と表示制御ユニットの他の各一部」は、本件発明の「メモリ(21)」、「メモリ(22)」、「第1マンマシン制御手段(31)」、「第2マンマシン制御手段(32)」に相当することは明らかである。

また、引用例1の前記(ホ)において、「遂行業務を他の業務に切り換える場合は、操作者が、その指示を鍵盤6から入力する事により行う。」とあるから、引用例1の「鍵盤6」は、本件発明の「切替指令手段6」にも相当している。

さらに、引用例1の「鍵盤制御ユニット3」は、本件発明の「キー制御手段5」に相当することも明らかである。

そして、引用例1の「ディスプレイ端末装置」は、可視情報を通信していることは明らかであって、またファクシミリ装置も可視情報の通信装置の一種であるから、本件ファクシミリ装置と“可視情報の通信装置”である点で一致する。

したがって、本件の発明と引用例1に記載されたものは

「2つのオペレーションを並行して行うデュアルアクセス機能を持つ可視情報の通信装置において、1つの表示器と、

該表示器に表示する表示データを格納する第1画面メモリと該第1画面メモリの表示データを制御すると共に第1のオペレーションを遂行する第1マンマシン制御手段と、

該表示器に表示する表示データを格納する第2画面メモリと該第2画面メモリの表示データを制御すると共に第2のオペレーションを遂行する第2マンマシン制御手段と

該第1マンマシン制御手段と該第2マンマシン制御手段へ選択的に実行指示情報を入力するキー制御手段と、

該第1画面メモリに格納された表示データと該第2画面メモリに格納された表示データを該表示器に切り替え表示させ、かつ該キー制御手段のキー情報入力先を切り替える切替指令手段と、を具備することを特徴とするデュアルアクセス機能を持つ可視情報の通信装置」である点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

(1)、可視情報の通信装置として、本件発明がファクシミリ装置であるのに対し、引用例1記載のものはホストコンピュータに接続するディスプレイ端末である点。

(2)、「メモリ」、「通信回線接続回路」、「表示制御ユニット」について、本件発明は第1と第2とで別々であるのに対して、引用例1記載のものは1つのものを分割した一部である点。

次に、上記各相違点について検討する。

相違点(1)について、

可視情報の通信装置として、画像情報を通信ネットワーク等を介して他の装置との間で画像情報を交換して印刷出力する装置すなわちファクシミリ装置は周知であり、ファクシミリ装置にデュアルアクセス機能を付加したものは、引用例2に示されているように周知のものにすぎないので、引用例1に記載されているデュアルアクセス機能付可視情報通信手段を、本件発明のように、第2引用例に示されているようなデュアルアクセス機能付ファクシミリ装置に特定することは、当業者が特に発明力を要することなく必要に応じて適宜なし得ることと認められる。

相違点(2)について、

2つのオペレーション(業務)に別々のもので行うことは引用例1の前記(イ)の記載にみられ、かつ通信装置、情報装置において2つを一体にするか別体にするかは任意に採用されていることであるから、「メモリ」、「マンマシン制御手段」をオペレーション毎に別々にすることは単なる設計上のことと認められる。

そして、本件発明により得られる効果は、引用例1記載の技術事項と引用例2記載の技術事項とから予測可能なことであり、格別なものといえない。

なお、審判請求人は、答弁書において、本件発明における、画面メモリとこの画面メモリの表示データを制御するとともにオペレーションを実行するマンマシン制御手段を2つ有し、各々のマンマシン制御手段が画面表示からそれに対応する装置の動作制御までを一括管理する構成が引用例1には何ら開示されていない旨主張している。

しかしながら、「マンマシン制御手段」は、特許請求の範囲の記載からみて、第1画面メモリ(21)と該第1画面メモリ(21)の表示データを制御するとともに第1のオペレーションを遂行し、第2画面メモリ(22)と該第2画面メモリ(22)の表示データを制御するとともに第2のオペレーションを遂行するものであるから、上記したように、引用例1記載の「表示制御ユニット2」および「通信回線接続回路1」と同等のものと認められる。マンマシン制御手段が画面表示からそれに対応する装置の動作制御までを「一括管理する」構成については、特許請求の範囲の記載のどこからも見い出せないうえ、他方、切替指令手段(6)が画面メモリ(21)、(22)に格納された各表示データを表示器(1)に切り替え表示させるものであることから、審判請求人のこの点の主張は本願発明の要旨に基づかない主張であるから、採用することができない。

したがって、本願発明は、特許異議申立人が提出した甲第1号証刊行物、甲第2号証刊行物に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年10月1日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙2

〈省略〉

本登明の原理図

第1図

別紙3

〈省略〉

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